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2010/08/09(月) 恵比寿Liquid Room

  サンフランシスコ出身の3ピースロックンロールバンド、Black Rebel Motorcycle Club来日公演。バンド名は映画「乱暴者」に登場するモーターサイクル・ギャングから取られている。メンバーはB/VoのRobert、G/VoのPeter、DrのLeahの三人。先の8/8(日)Summer Sonic 2010 Tokyo出演直後の恵比寿Liquid Roomでの単独公演である。
 
  今年発売になった5枚目のアルバム「Beat The Devil's Tattoo」からは結成当初のDrが脱退し新女性ドラマーLeahが参加。彼女加入後の初の来日公演でもある。筆者としては友人のフェイバリットバンドとして名前を知っていたこのバンドであり、ある日新アルバムを手にして「おおっと!なんじゃこれ、骨太でかつ轟音で!!」と引き込まれた。従って日の浅いファンながら早速来日公演に参加したのであった。故にこのレポートも新曲を中心にスポットを当てた文章となっているがその点をご了承いただきたい。旧譜からは非常に強いフックのある曲もあるがほとんど予習がされておらずほぼノータッチである。かたじけない。   

  恵比寿Liquid Roomはご存知の方もいるかと思うが元々新宿にあったライブハウス。1Fの入口から一旦2Fに上がって、ライブスペースのある1Fに降りる変わった造りの建物だ。2Fにはバーやカフェ、ギャラリースペースもありライブのみならず様々なイベントが行われる東京を代表するイベントスペースとなっている。開演前、バーの周囲を見回してみるとバイカーブランドで全身を固めたカップルや仕事帰りのサラリーマンなど年齢層は割と高めの人が多い。そのなかでもお婆ちゃん?と呼べるほどの初老の女性もいたことが印象に残った。往年のロックファンさえ魅了するBRMCの確固たる音楽性を表す指標の一つではないか?と思ってしまっては考え過ぎだろうか。


   筆者はフロアの前から二列目の柵のすぐ後ろ、やや左側からライブを観ることにした。Louis Armsrtrong「この素晴らしき世界」をBGMにお酒を手にしてしばし待つ。19時。固唾をのんでいると客電が落ちSEが鳴り響いた。歓声が起こり会場がしばし興奮に満ちた。ほどなく歓声が静寂に戻ろうとする絶妙のタイミングでメンバーが上手から登壇し始めた。ステージ向かってRobertが左、Peterが右手、中央後部にドラムのLeah。真っ暗なフロア内、三人の顔はまだよく見えない。一曲目は新アルバムの序盤に重くどっしりと構えるWAR MACHINEだ。大きくバウンドするような展開にステージ上の左右に配置されたストロボライトがオーディエンスと向き合うように光輝く。煙の効果とまじりあったまばゆい光がこちらを照らす。サイケデリックで夢遊感覚極まりのないこれとない滑り出しであった。Gretsch のBassを短めのストラップで脇に抱え込むように演奏、時々、銃を構えるようにヘッドを観客に向けて狙い澄ますRobert。そして彼に折重なるように歌い上げるPeterとの掛け合い。ドラムのLeahも彼ら野郎二人に劣らない女性とは思えないプレイ、パワフルです。それにしてもVoの二人は本当に声が良く似ている。目をつむって聞いているとどちらの声かわからなくなる。見事に融合して溶け込む二つの声だ。(会場の音響レベルがもう少し上がると体感度も増したかもしれないと一部感じた。)

  MAMA TAUGHT ME BETTERで続いた後にアルバムタイトルナンバー「BEAT THE DEVIL’S TATTOO」。Velvetsを連想させる民族調リフとヒッピー然なサウンドプロダクション。祈祷する者たちの咆哮に図太いギターが畳みかけてくるがっちりとした蠢き。反応は上々、ここで思わずシンガロングが起こった。

  AYAも友人の言葉を借りるならアダルト。うねる跳ねるBERLYN。この曲はキャッチーなのにダークだ。ロックンロールスタンダードとして後世の耳にも残るな。ROBERT Acoustic SOLOとPETER Acoustic SOLOを挟んだ。一人二曲づつのクールダウン。Peterの歌ったBob Dylanさながらのフォーク曲はなんだろうか?

  スローテンポのとぐろ巻くHALF-STATE。根底にあるのが重厚な、サイケデリックなフィードバック。声をも楽器としてサウンドの一部に昇華している。絞り出すようなハスキーな声。ワウを使用した歪むギター。音質はささくれだってくすんだあいまいだが統一感に満ち溢れている。うつむいてゆらゆらと揺れると心地がいい。

   アンコールは二曲。CONSCENCE KILLERでどっと上げる。そしてラストナンバーはSHADOW’S EEPER。一定の歩幅で差し迫り来る緊迫感と煌めいて堕ちるスリリングなサビのギターリフに圧倒される。エネルギーの塊がこちらに飛んでくるかの如く後半のノイズ展開でシューゲーズする。打ちのめされた感もあり軽いショック状態で拍手もパラパラとなる。アルバム中ひときわダイナミックな展開なので鍵となるカードであろうことは予測はできた。だが最後に演奏し圧倒的なコールドゲームでやられるとは夏の高校球児さながら涙してひれ伏すべき一幕で幕を下ろした。

   およそ約二時間超のステージはゆっくりとしかし聞く者の心にBRMCの音を強く印象付けたものだった。楽曲のそのもので目新しいことを提示はせず、坦々と音源の再現に徹していたような気がした。それはこのバンドが偶然性の混沌を生み出すバンドではなく自信という安定に裏打ちされた現在の自分たちを余すところなくオーディエンスにさらけ出す奴らだということ。じっくりと黒い反逆者達のエキスを色濃くにじみださせそれを観客は堪能できた送り手と受け手の波長の合致したライブだったと言えるだろう。それはゆらゆらと体をくゆらせる観客達への熱の伝播の仕方を観ていて理解できた。ここはモッシュする場ではなく曲の輝きに耽美する場だと。
一枚でいいでしょ・・・

   タバコを2Fで吸っていると!?Robertがアコギを手に登場しソファの上で歌い始めた。終演後も鳴りやまないアンコールに答えての思わぬサプライズだったのだろう。お客さんは携帯で写真を撮りまくり、それにも動じずRobertは綺麗な声と弦の切れてしまったギターで、テーブルに乗り上げ3曲を歌いきって楽屋に戻っていった。

  サインをもらえるチャンスとばかりに僕も用意していたCD紙ジャケとマッキーを持った手を伸ばし奥に向かって歩き始めたRobertを追いかけた・・・・しかし!!カフェ入り口に垂れ下がるひも状の暖簾にカバンのジッパーが引っ掛かり進めなくなるという痛恨の大失態・・・・感動の思いの丈は届かず非常に悔しい思いで俺は会場を後にするのであった。Summer Sonicのステージで正直体感したかったのもあるが、時間尺を考慮するとこの素晴らしきライブの成立条件は単独公演であった事が否定できない。悔しかったのはこのLiquid RoomでのBRMCのプレイが本当によかった証拠なのだ。以降すっかり僕はバンドに心をつかまれてしまっている。がっつりとロックンロールした直後により近くで甘い美声で降りてくるとは。まるでモーターサイクルギャングが飴と鞭を使い分けるようなあざとさだな。

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