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Converted by Falcon Hive

2010/10/08(金) Zepp Tokyo

 レポートする必要があるのか?と言われればそれまでだが、当然のごとくいいライブだったと思う。Underworldの来日ツアー3日目である(前日同会場、前々日はZepp Osaka)。1990年代最大のダンスフロアアンセムと言って過言ではない「Born Slippy Nuxx」以降、彼らの知名度とライブの評価はほぼ鉄板になっており、Fuji Rock Festivalに召集されればメインステージのヘッドライナーが定位置、今回の様にライブハウス公演ともなるとSold Outはやはり必至である。また、冬の巨大レイブイベントelectraglideでの幾度もの来日(幕張メッセ2000、2003、2005)、シーンを席巻するアーティストを召集しアートと音楽の巨大ジャムイベントとして彼らの企画で行われたOblivion Ball(幕張メッセ・2007/11/24)の開催。そんなご贔屓になっているここ日本で彼らがステージ上でプレイするならば今のところスベることなどまずないのである。勿論それは50歳を過ぎたと感じさせないKarlのVoパフォーマンスとRickの神々しいプレイがあってのことではあるけれど。


  だから盛り上がったそうでない云々はさておいて、今回の来日ツアーで注目すべき点は約三年振りの新作「Barking」の新曲がライブのセットリストでどう機能しどう溶け込むのか?そして彼らのキャパシティに見合わない小さなライブハウスでのギグがどのようなものになるのか?この二点だった。

  前座のDJプレイがストップした20:08、会場が暗転。ステージ上手からRickとDarren Priceがブースに入り、続いて白黒ストライプのボーダーカットソー姿のKarlが登場した。アルバム未収録曲「Downpipe」でライブがスタートした。彼のVoがFeatureされている別アーティストの楽曲を一曲目に持ってくるのは今までにない変化球な印象だ(Mark Knight & D.Ramirez V Underworld名義「Downpipe」)。音数少なめのテックハウスでオーディエンスが個々自由に踊り始める。ごくごく自然な形でのダンスフロア化に成功。一曲目で圧倒するのではなくさらりと馴染ませる感が今までになくとても新鮮だ。

http://www.iloud.jp/video/mark_knight_dramirez_v_underwo.php

  しからば、つかみは一曲目ではなく次の新曲「Always Loved A Film」だった。この曲はキャッチーな歌モノである。サビで繰り返されるHeavenという単語は外向きのベクトルで多幸感に満ち満ちている。美しいシンガロングになったのも必然だった。そしてドリーミーで美しいシンセがドッドッドッドと四つ打ちのリズムに乗っかって観客の手を引っ張っていった。手のひらを上に向け押し上げるKarlの動作が観客を扇動するのに一役買っていた事はこの曲のポテンシャルをうまく捉えたプレイだと感じさせた。

  違和感を感じたのは旧曲「Nu Train」。これは前後の曲とは明暗の色がまるで違う。以前幕張と苗場で体感した時にスケール感をイメージさせる曲だと思っていたので巨大な会場でこそ力を発揮するのではないかと思った。この場合、大は小を兼ねていなかったと思う。ゆえに唯一セット内で浮いてしまっていたような印象を僕は持ち少し残念だった(Trainspottingでの使われ方が強烈だった為、とにかくダークなイメージが強い。曲自体好きなのだけれど場面が合致しておらず半端ものな感覚が浮き彫りになってしまっていたという事を言いたかったのだ)。

  「Two Months Off」「Scribble」。この二曲の連なりは今夜一番の祝祭モードへと観客を解放させた。特に後者のドラムンベースはコントロールをなくしたダンスフロアへと会場を変貌させ、刻むハイハットがテンポアップを引き起こしステップを混沌とさせた。それと「And It’s OK!」と叫ぶコーラス部の取っつきやすさは開放的になる引き金の役割を果たしていると言える。そういえばこの2曲は中盤のJuanitaのモノローグと音のカーテンの場面構成がよく似ている。そこの解放的場面が重なってシナジーを生み、この二曲の流れはバッチリマッチしあったのだった。それはUnderworldがこのライブのバイブレーションを掌握した前半のハイライトシーンたらしめていた。

  続く「Bird 1」で幕間的な落ち着きを見せたと思うと「Rez/Cowgirl」が。繰り返される電子音とジャンプアップ&ダウンが僕個人的に一番楽しい場面だったと記憶している。縦乗りが最高に心地よかった。ここで飛び跳ねなけりゃどこで飛び跳ねる?Karlがジャンプすれば会場もジャンプしそれに応えた。両手を前後に動かし飛び跳ね煽る姿が近くでよく見えて爽快だ。

  この後、歌モノ新曲二曲をドロップ。ロックとダンスミュージックの絶妙な均衡を保った一幕が展開される。「Between Stars」の囁くように歌うバース部分、静かにうねるベースラインとゆっくりと進むリズム。そして盛り上がりを見せる中盤。静かな熱でもって浮き上がって行き、続く「Diamond Jigsaw」へとそれを伝播させた。ここでKarlがGibsonを弾く。暗い曲調から一転、キラキラとした輝きを放った。バンド演奏の様であり、しかしフロアライクなリズムセクションを持つどちらの曲にも体がゆっくり縦に揺れる。このあたりでRickがボコーダヴォイスをコーラスで歌っていた。とても珍しい。

  舞台後方の高い台に上りそこからオーディエンスを見渡す「King Of Snake」。目を覆ってしまうくらいのすさまじいストロボライト光の点滅連続波状攻撃をくらって恍惚感が増幅させられる。脳みそを溶かされたような感覚に浸って両手を上げて天井を仰ぎ見ているとおなじみのビートがインサートされてきた。「Born Slippy Nuxx」へ突入だ。いつもはプレイに徹してなかなか顔を上げないRick。でかい会場でこんな光景は見られなかったろう、彼が両手を上げて満面の笑みで目の前の観客に向かって何かを叫んでいた。おなじみのエコーのかかったシンセ部分で観客を煽ったのである。彼の好調な様子を見て、ユニット自体の状態が絶好調なのだと伺えたシーンだ。言うまでもなく今日一番の反応を見せたオーディエンスに対してはKarlが「Beautiful、Amazing、Fantastic」を連発。ここで本編が終了した。

  チルアウト的位置づけな「Dirty Epic」を経てアンコールラストはライブの定番ナンバー「Moaner」。問答無用の攻撃的ビートと止めどないKarlのスキャットボーカル、そして再度降り注がれたストロボ閃光の雨あられ。クロージングの一抹の寂しさには微塵も浸らすことなく圧倒的なアグレッシブさでライブを締めるに至った(興奮状態が落ち着いて汗だくで足も疲労していた事に気づくのにこの後しばらく時間が必要だった)。

  実は前日までの大阪&東京の両公演ともその日のうちにセットリストが国内公式サイト上で全て公開されていた。二日間ともアンコールの曲を除き全く同じ選曲と順番だったので、今回の来日ライブのセットリストは固定されているであろうことは予想がついていた。実際のところ、今夜10/8(金)のセットリストは頭からアンコールまで10/6(金)Zepp Osaka公演のものと全く一緒だ。

http://twitter.com/Underworld_JPN/status/26746983201

  このことは予定調和感を感じさせてしまうのだが、これはUnderworldの自信から来る横綱相撲だったように思えてならない。巨大な会場のそれとは別種の歓喜と興奮。それを近い距離の観客に如何にして伝えて差別化をはかるのか?このセットリストは彼らのキャリアの引き出しから取り出された余裕の選択だったに違いない。単純に距離が間近だった事、そしてKarl Hydeのパフォーマンスがより演者への注目が集中することに拍車をかけた。両手を大きく広げる&交差させる事を繰り返すダンス、ガニ股で激しく踊るダンス。強烈な熱を放つKarlのパフォーマンスにずっと視線は釘つけだった。(歌を聴かせる=注視させる新曲達がその事に大きな役割を担っていたのも事実。場面変換が必要になるポイントポイントでそれが機能していたと思う)。映像演出ももちろんあったが正直なところ記憶がほとんどない。舞台演出への注視が殆どないことは逆に演者のプレイが際立っていた事、このライブの正しい武器が“音楽”だけであったことの証明だ。無機質なリズムが繰り返されるダンスフロアとは無縁のコントロールの効いたライブ構成だったと思う。何万人もの大会場でのカオスを引き起こすものとは確実に違うものであった。10/10(日)に行われる新木場ageHaでのオールナイト公演に参加できないのがとても残念だが、濃い内容が詰まった予定調和だと考えれば一公演参加でも満腹感は得られたと納得して会場を後にする事が出来た。

  なんとKarl Hydeは今年で53歳である。キャリアは数えること20数年。そのことを考えると非常にバイタリティに満ち溢れた年の重ね方をしている。僕は過去三度しかパフォーマンスを見たことがない。でも今回の彼らのライブパフォーマンスを見て、今現在、神の領域に至っているように感じた。それはなんでなのかって? 降臨した神様がちょっと煽るだけで全信者が崇拝のレスポンスを返す。それが統制的で自由自在だったから。言い過ぎか?

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